ジャガイモ、それは人々の食欲を駆り立て満腹へといざなう神秘の植物。
古代のアンデス山脈で生まれ、現代の先進国にはなくてはならないほど普及している。
日本でジャガイモと言えば男爵とメークイン、違いはホクホク感が強い男爵に対し粘りが強いメークインといったふうに食感により使いわけがなされる。
ホクホク感の正体はデンプンであり、ジャガイモはデンプン採取目的で栽培されることもある。粘りの正体は一種のたんぱく質だろう、米もたんぱく質が多い品種ほど粘りが強い。
そんなジャガイモだが、現産地では男爵よりもホクホク感が更に強いアンディゲナ系ジャガイモが多い。例えるならサツマイモの黄金千貫のような粉質感だ。
インカの食卓という本で、改良種のジャガイモはモルロ・チャスカと呼ばれるパパ・ナティーバから生まれたと書かれていたが
それと同じ流れのページには沢山のパパ・ナティーバが紹介されており、粉菓子のような味わいという文がある芋がみられるが、その中で紫皮のものはアンディゲナ系だと考えられる。
パパ・ナティーバとは近年の改良種ではなく古くから栽培されてきた古典品種のことで、英語で言えばネイティブポテトということになるだろう。
世界ではじめてヨーロッパに持ち込まれたのもこのアンディゲナ系ジャガイモで、インカ帝国を侵略したスペインで有名なパパ・ネグラという呼ばれる小さい紫皮ジャガイモもアンディゲナ系である。これはシワシワポテトと言う意味のパパス・アルガタスという伝統料理に利用される。
アンディゲナは野生種と言われるが、選抜が進んでいるのか他の野生種よりかなり大きい、とはいえ人間の親指程度である。紫皮で白肉、ホクホク感が非常に強い。
ただし、アンディゲナ系は短日植物の性質が強く、日本では短日になる秋冬にしか満足に育たない可能性があるとされている。これはアルゼンチンのS×Reichを除く多くの野生ジャガイモにある特徴だ。サツマイモが秋にしか芋を作らないのも同じ理屈。だが、個人的にはアンディゲナ系は普通に春夏栽培で問題ない気もする。
ところで皆さん、いやあなた、もしくはおぬし、日本にも在来ジャガイモと呼ばれるジャガイモがあることを知っているだろうか?
太古の昔からとはいかないが、どうやら豊臣秀吉からちょっと後の時代くらいからあったかもしれない。細々と長らく栽培されてきた品種から、天明の大飢饉の際に山梨の中井清大夫が広めた品種、そして新しいものでは日露戦争の際に兵士が持ち帰ったものなどがある。
なかなか面白いものが多いので2019年夏、拙者が日本中をちょっとだけ周り集めてきた。
それでは日本の在来ジャガイモを見ていこう。
まず、俺ちゃんが最初に向かったのは
ニホンオオカミ目撃多発地帯である檜原村。
自然豊かで空を見上げれば木の枝にヒルがぶら下がり人が通るのを待ち構えている。東京唯一の村だが、僕が知っている東京とは完全に異なる世界がそこにはあった。
だがしかし、着いたのが夕方ですでに売り場は閉まっていた。
しかも雨!帰って出直すか…
いや、帰らない!というかバスもうない!!
マリーなんとかネットさん風に言えば
売り場が閉まってるなら開くまで待てば良いじゃない
帰れないしね。
とりあえず雨をしのげる場所を探すと
バス停の待ち合い所発見
そこでreゼロの原作を読みながら過ごした。
ちょうどエキドナの墓のあたりで超盛り上がったよね。
ウサギに食われるシーングロすぎだろ。
半野宿中に一つ良かった事があるとすれば、自販機の当たりが出た事。
そして朝になり雨は無事止まず直売所の前で待っていると…
キター!!!おばちゃんキター!!
おばちゃんが現れてこれほど嬉しかったことはない。
美形でそんなにおばちゃんじゃなかった気もするけど。
そして第一の在来ジャガイモ
おいねのつるいもを手に入れた。
傘なんてハイテクなもの持って無かったので
帰りにおば…お姉さんが傘くれた。
黒に水玉のやつね、でも帰りの電車が満員すぎて無くしましたすいません。
そして第二のジャガイモは山梨の落合芋、
おいねのつるいもと並べると紅白っぽくてなんかいい
どちらも皮にコルク質のかさぶたができるそうか病が目立つが味は変わらないため、田舎の直売所ではなんの問題もなく販売されているのだろう。都会のスーパーマーケットなどのジャガイモにそうか病がめったに見られないのは、消費者のエゴと薬品の力、そして農家の血が溢れんばかりの努力による成果である。
ただ、味は全く変わらないし食感としてもそれほど気にならない、消費者になるであろう人間のあなた方もそろそろ無駄な潔癖は辞めたらどうだろうか?
そうすれば農家もそうか病対策を行う必要がなくなり、値段の下がるジャガイモも出てくるであろう。
野菜が高い果物が高い、日本は外国に比べて高いなどと言うおばちゃんは多いが、日本の果物や野菜の値段が高いのはお前らの無駄な潔癖も一つの要因である。ちなみにそうか病は土壌がアルカリ性に傾くと発生しやすいので、弱酸性よりに調整することである程度予防ができる。もちろん効果の高い薬剤も存在するので、無農薬信者でなければ利用すると良いだろう。
ちなみに僕は農薬使わない派、そんな広い土地ないからテデトールが最強。まぁ、そうか病は気にしないしうちだとほぼならない。
おいねのつるいもも山梨県の都留から檜原村に嫁にきたおいねが持ち込んだと言われているため、古くは落合芋と一緒に栽培されていたこともあるかもしれない。中井清大夫が山梨県に広めた清大夫芋の一群であろう。とりあえずおいねのつるいもは男爵以前に日本でも広く栽培されていたアーリーローズに遺伝的に近いというので、海外の改良種の原種になったジャガイモの一つかも知れない。
パパ・ナティーバによくある芽が深いタイプで、芋によって二次成長がみられデコボコになりやすい、雰囲気はモルロ・チャスカに似ているかもしれない。
第三のジャガイモは中津川芋だ
もうひとつのニホンオオカミ目撃多発地帯である三峰山にある三峰山神社では、山麓丁という店で販売される中津川芋を使った芋でんがくが有名だ。
いかつい顔だが優しい話し方のおっちゃんが店主のようだ。『じゃがいもではありません。奥地の砂利畑でごく少量採れる貴重なものです。』と書かれているが、残念だがジャガイモ以外の何者でもない。ただし、日本、いや世界中でも類をみない特別なジャガイモではある。
詳細は後ほど書くのでしばし在来ジャガイモ物語をお楽しみ下さい。
在来ジャガイモの多くはウイルスに犯され葉に異常が出やすいと言うが、栽培してみると中津川芋の葉はむしろ通常のジャガイモより健康的で美しい。日露戦争の時に兵士がロシアからおパンティに入れてこっそり持ち帰ったとされている。ただ山麓丁のサイトではリュックに入れてきたみたいな感じ、まぁ、どっちでもいいわ。
はじめに大滝村の特産品売り場に向かったが、男爵しかない。
店員のおばちゃんに聞くと、今では作っている人が減って極稀にしか入荷しない、そして今年は天候不順で収穫が少なかった。
とのことだがところがどっこい
何がところがどっこいかはもうちょい先で話します。
次に吾が輩が向かったのがあの三峰山神社だ。バスが揺れまくりで崖から落ちないか怖い。ただ、こんな辺鄙な村のなにが面白いのか客の半分以上は外国人だった。そして三峰山神社につくと…
山麓丁休みやんけ!やってないやんけ!
でも芋がおいてあるぞ…
【あかいも 200円】
仕入れは直売所か?お前が全部買い占めたんか?お?
とか思ったり思わなかったりしながらいかつい店主にこれ下さいって言ってみた。
「ごめんねぇ~これは売れないんだよ~」
チッ、黙ってパクれば良かった…
なんてことは思わずに一度状況を整理すると一つの可能性にたどり着いた。
これ、あの直売所の値札とちがくね?てことは別の直売所か?
そして調べると近くの駅とそのとなりのとなりの駅に道の駅と農産物販売所を発見。
完全に隣村になるが行ってみると…
男爵男爵男爵男爵男爵インカのめざめキタアカリキタアカリキタアカリ
そしてデストロイヤー!!!
中津川芋ないやんけないやんけいやんけやんけんけ…
うぉ、反対側の足元にあった。笑
特産品の扱い悪くね?いやまぁ、芽が出やすいから日陰に置いてるのかな。
ということで見つけたぞ!中津川芋!!
店員A
「この芋知ってるんですか!?どうやって食べるんですか?」
店員B
「味噌で食うんだよなぁ、サイコーなんだ。」
と言われたがじゃがバターですって言っておいた。
そんなに反応するならもっと力入れて宣伝しろよ、と思ったが地元の人からしたら当たり前の食材すぎて宣伝する気にもならないのかな~?
だがしかし、大滝村にはもうひとつ古来からのジャガイモがある。
それは確実に日本最古の品種であり、現在地を除く海外においても最古の品種の一つだろう。
そのジャガイモを求め、次は農産物販売所に行ってみた。
するとなんと
あっさり見つかってしまった。
だがしかし一袋だけだ。
地元人は中津川芋より好むというが人気で売り切れ寸前だったのかもしれない。
それが第四の在来ジャガイモ
大滝紫芋である。
中津川芋も大滝紫芋も大滝村の特産品として知られるが、"ところがどっこい"特産地の大滝村では手に入らず隣の村で両方販売されているのは皮肉な話しだ。
完全に隣村の特産品と化している。
旅のあいだドデカミンを飲んでいたが
ビィ君もビックリである。
大滝紫芋は原産地からはじめてヨーロッパに持ち込まれたアンディゲナ系のジャガイモであり、日本に来たジャガイモの中でも最も初期の品種であろうと推測できる。
紫の皮だが白肉で皮が柔らかいとされている。
アンディゲナ系は5センチ程度の小粒品種が多いのと短日植物の性質がある可能性がネックだが、大滝紫芋は普通にスーパーで販売されているメークインサイズで、日本で問題なく栽培されていることから短日性はないか、あっても弱いのだろう。
第五の在来ジャガイモは
清内路黄芋だ。
長野の超山奥、清内路村に産する希少な芋。
長芋タイプで、黄肉のジャガイモ
ちょっと長野の山奥で遭難してる時間が無かったので、Facebookで清内路カボチャ保存会の方をみつけてお願いしたら無料で送ってくれた。
長野の人は良い人が多い。
僕は野宿で無計画なのでプチ遭難とかよくするのだ。
そんなわけでジャガイモ戦隊の5人のヒーローが集まった。
ただしレッドが二人いて外観からは区別がつかない。
ところが肉質は全く異なるため、中身を見ればすぐ分かる。
半透明で黄色味があるように見えるのが落合芋、完全に白いのが中津川芋だ。ジャガイモはデンプン質が強くホクホクしているほど半透明で黄色味がかる。だがインカ系のように完全に黄色いのはカロチノイドなどの色素成分であり別物。粘りが強い品種ほど透明度は下がり白っぽくなる。
①おいねのつるいも
ジャガイモ臭が強く、食感は男爵に近いホクホク感、黄皮で肉は半透明。
ジャガイモ臭とバターの香りの相性が良いのでじゃがバターにすると最高だ、
おいねのつるいもはじゃがバター専用ジャガイモと言っても良い。
②落合芋
ジャガイモ臭は少ないが、おいねのつるいもより少し硬いホクホク感で旨味が強い、赤皮で肉は半透明。
落合芋は煮崩れしにくく、旨味が強いので薄味の煮物にしたら最高だろう。一般的に普及しているジャガイモにはないあとを引く旨味がある。
③中津川芋
粘りが強くうるち米のような食感、ジャガイモ臭は極少なく主食としても良さそうなジャガイモ、赤皮で肉は透明度が無く純白で断面はまるで消しゴムのような白さ。
伝統的に串に挿して芋でんがくにするだけあり、串を刺しても割れることがない程の粘りがある。日本中どこを探してもこれほど粘りが強いジャガイモは他にはないだろう。
栽培も比較的楽だ。
④大滝紫芋
今回唯一のアンディゲナ系ジャガイモ
ジャガイモ臭は少なく、ホクホク感が超絶強い、デンプンが分解されることにより口の中で次々と甘味が生まれる。紫皮で超半透明で黄色味がかる。
普及品種の中でこのジャガイモに勝てるホクホク感を持つジャガイモはないのではないだろうか?同じくアンディゲナ系である根室紫は古い時代に品種改良に使われたらしいので、僕は大滝紫芋を利用したい。
⑤清内路黄芋
ややジャガイモ臭があり、ホクホクというよりは粘り系でメークインに近い、黄肉で有名なインカのめざめほど甘味が強くなく、様々な料理に利用できそうだ。黄皮黄肉。
シャドークイーンと合わせてメークインの色違いとして販売したら面白いかも知れない。
そして後一人
幻のシックスメンの登場だ!!
⑥下栗二度芋
緻密なホクホク感がある。全てのジャガイモを超える味の濃さとコク、旨味があるジャガイモ。ゆでて塩だけで美味い。黄皮で肉は半透明。
甘さでインカ系に負けるが、甘さ以外の全てにおいて勝っている。日本にこれ以上のジャガイモは他に存在しない。
機会があれば食べてみると良いだろう。
現時点で日本一のジャガイモは下栗二度芋以外なさそうだ。
まとめると
おいねのつるいも→じゃがバター専用
落合芋→煮物専用
中津川芋→粘り最強
大滝紫芋→ホクホク感最強
清内路黄芋→黄色いメークイン
下栗二度芋→味最強
そんな感じ
ちなみに粘り最強の中津川芋と
ホクホク感最強の大滝紫芋をならべると
ホクホク系と粘り系の肉色の違いがよく分かる。
ということで以上、在来ジャガイモ劇場でした。
僕のお気に入りは中津川芋、大滝紫芋、下栗二度芋ですね。
ここで紹介したのはまだまだ一部、在来ジャガイモは更に存在する。
他のジャガイモか?欲しけりゃくれてやる
探せ!、この世の全てをそこに置いてきた。
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